「夏の空はピンク色をしていて好きなんです」この前の美容師の言葉が忘れられずに、夕焼けを見上げるようになった。
これから誰と肩を並べて歩いても、きっとどうしようもなく思い出す。いつも一番好きな映像・音声で再生されて、映画のフィルムのように焼き切れてしまうこともない。それは美しい呪いのように、僕を永遠に苦しめるだろう。
今日も空を見上げた。特別に綺麗な夕空だった。そして、光が街へ降りてきていた。ぴかぴかのビル、古びたラブホテル、知らない人の家、ダサいフォントの看板、まるで子供の描く夢の街のようにすべてがピンク色に塗り替えられ、別世界が広がっていた。僕は思わず立ち尽くし、その光景に見とれていた。だが、異様な現実が視界に入ってきた。
ピンク色の街の中を、黒い背広を着た人々が列をなし、骸のように歩いていく。ぼんやりと前を見つめて、あるいは握りしめたスマートフォンを見つめて。
空があんなにも綺麗なのに。まるで駅へ向かうことが宿命付けられているように、誰もが同じ方角へ歩いていく。
いったい、その先に何があるのだろうか。ただ、一切は過ぎていく。さらさらと落ちていく命、たくさんの呪いを振り返るばかりの生活、骨が少しずつ摩耗していく。カルシウムをとっても、幾万匹の牛を殺して美味しいところだけを焼いて食べても、俺は植物の死体を着ているよ。ぎゅるぎゅると脳みそが回転し、一番強い呪いを再生する。
「ぼくはいいものをつくらなければいきていてもしかたがない」
德丸 魁人(2021/6/23)