蛮族の生活

蛮族です、未来を喰らいつくします

貴方のための俳句

人死んで煤煙の街花だらけ

暗闇に明日を見つければ花火

止まらない震えや祭りの音がする

溢れゆく梅雨の匂いや犬が死ぬ

診察を待つワラビーよ夏の果て

短日の駅に獣の影映る

ひたひたと鬼に成りゆく寒さかな

北風や目をつむりつつピアノ焼く

歩くたび世界が揺れる冬至かな

悪霊や同じ台詞を繰り返し

休日のサラリーマンの手首かな

コカインの王国立ち上がる五月

黄昏の夢魔コカコーラ飲みほしぬ

〈山を焼く〉僕が傷つかないように

炭坑を吹っ飛ばしてる日のカンナ

悔恨が俺を追い抜いてゆく聖夜

狼に真昼の匂い雨激し

風花や犬を喰ふ犬見ておりぬ

迷宮の路地埋め尽くす鴉かな

虎の檻閉園のベル鳴り続け

手袋の中は暗黒犀通る

もののけの神社にうずくまる四月

旧寺院裸者の懺悔の音静か

蜻蛉の一斉に死ぬ神の杜

夕立去る大使館から血の気配

鱶の喰ふ肉赤々し夏の雨夜

風死して戦夢見る少年よ

ゆふなぎに永遠に祈る聖母像

林葬や葬列の背に浮かぶ汗

はつなつの銃の全き冷たさよ

花芒人美しく滅ぶベし

子守柿戦艦一日掛け沈む

凍る湖戦車砲塔だけを出し

生剝ぎの獣の蒼き瞳かな

走っても走っても街春終わる

八月のまどろむ街の雑役夫

十月や花売る少女に花溢れ

飢えている終点近きバスの中

夏の果て密入国の船行けり

ラグーンにペンギン眠る午前二時

日盛りに青年が買う月と銃

冬さうび抱かれて白き息となる

冬の雨遠くに紅き傘回る

春の雨しけた煙草に火をつける

朝の果て花びらひとつひとつうばふ

人待てば花降る街の花の午後

青年と鉄塊交差して夏だ

蝉時雨虚ろな約束だけ交わし

炎昼や街は間断もなく膨れ

百日紅青年雨にさらされて

少女みな金魚泳がせゆく祭り

一斉に少年兵は髪洗う

夏果てる路面電車に飛び乗って

白桃を眠らせておく夜だった

化け物と湖の花火を見ておりぬ

地下鉄に金木犀が満ちてゆく

風花や呼吸するよう煙草の火

沈黙と時々春の来る気配

古着屋に新品置いてある真夏

純血と混血歩く夏の果て

五百円ねだる褐色汗と雨

夕立かなマルボロの箱濡れていき

カフェオレの缶積み上げる梅雨の入り

炎昼や地下鉄に酒飲む男浮浪者や

歩き出せば四つ路の角に梅雨が来る

万緑の中狼の話など

少年の歩いて朝の冷凍都市

ふらついて帰る夜明けの救急車

サンタコスの女ふらつく聖夜かな

グッド・バイ ばかばかしい春だったな

「あいつもう死んじゃったのね」柿を剥く

雲の峰象死してなほ象遣ひ

 

2021 7/2 ことと