蛮族の生活

蛮族です、未来を喰らいつくします

花降る街にさようなら

叫んでは負けて真夏の孤独かな


雨の中駆け抜けてゆく祭りかな


死んでいく百合湖に浮かべおる


八月のまどろむ街の雑役夫


林葬や葬列の背に浮かぶ汗


炎昼や街は間断もなく膨れ


万緑の中耐えようもない私


夏に入る熊を放っているときに


青年と鉄塊交差して夏だ


美しき蠅の死体や映写室


人をさす指で目に触る桜桃忌


恋人と鵺を見に行く修司の忌


コカインの王国立ち上がる五月


走っても走っても街春終わる


人死んで煤煙の街花だらけ


もののけの神社にうずくまる四月


また山は削られてゆき寒明ける


ふらここの痕のみ深く深くある


人待てば花降る街の花の午後


老人は「喂?」と詰めより沈丁花


食ふために浅蜊に砂を吐かせをる


安吾忌にやたらに安いウヰスキー


新しき旅籠殖えゆく京の春


唐突に唇触れるように春


屋根裏に黄の繭の黄の蠢けり


雲の峰象死してなほ象遣ひ


肉屋の豚が俺を見つめる晩夏


海岸に鱶うちつけられている夏夜


祝日のプールは浅き夜の匂ひ


旧寺院裸者の懺悔の音静か


万緑に呑み込まれゆく村と空


神の社荒れ放題に祭かな


心中を見に行く姉の手の団扇


火を放つ少年の背や明け易し 


汗ばんでおり一匹を葬って


休日のサラリーマンの手首かな


どうやらきたない言葉を叫びつつ半裸


ふらついて帰る夜明けの救急車 


少女みな金魚泳がせゆく祭り


化け物と湖の花火を見ておりぬ


百日紅青年雨に曝されて


一斉に少年兵は髪洗う


ざんばらと喚いて夏が通り過ぐ


暗闇に明日を見つければ花火


忘れてはやがて形の盆参り


虎狩りの声叫ばれる夏に居る


日盛りに青年の買う月と銃


瞬きの間に老いて街に夏


祝祭の街に鹿いる揺らぎかな


万緑の中狼の話など


飢えている終点近きバスの中


絞める手のより強くあり深雪中


手袋の中は暗黒犀通る 


おおかみに心臓食べられゆく呼吸


虎の檻閉園のベル鳴り続け


風花や犬を喰ふ犬見ておりぬ 


悔恨が俺を追い抜いてゆく聖夜


鳥葬や紅のマフラー巻き直し


北風や目をつむりつつピアノ焼く


半分の柘榴に指を潜らせる


花芒人美しく滅ぶべし

白桃を眠らせておく夜だった


短日の駅に獣の影映る


子守柿戦艦一日掛け沈む


蜻蛉の交尾めば蔦の伸びてゆく


火の種を消して金木犀を嗅ぐ


短夜や少年無造作に脱いで


躯ごと愛されている野分中


少年の舌長くあり水澄みぬ


炭坑を吹っ飛ばしてる日のカンナ


ジプシーの血が目覚めゆく月の朝


洋梨を煮詰める全て放る日は


十月や花売る少女に花溢れ


診察を待つワラビーよ夏の果て


夕立去る大使館から血の気配 


むこうみずになれずに冬の花火かな


湯冷めしており逆立ちして弟


雪国に成り行く夜の目合いか


人肉の焼ける匂いのクリスマス


鹿撃ちの銃身に雪薄く降る


逃げている友人に燗つけるかな


山を焼く僕が傷つかないように


ラグーンにペンギン眠る午前二時


街は皆凍りて赤き信号機


雪激し振り払う手の弱くあり


寒鰤の脂に鈍る刃かな


異教徒の混じる大聖堂の聖夜


山眠る象舎から象消え去れば


身籠もっている狼を見ず帰る


煮凝になりかけている夜半かな


凍蝶の例えば君の真っ裸


隼の統べて真冬の摩天楼


にんげんを堕ろせし人と年迎ふ


歩くたび世界が揺れる冬至かな


短夜に襦袢の帯を締め直し


額縁の担がれているクリスマス


冬の雨遠くに紅き傘回る


冬さうび抱かれて白き息となる 


ひたひたと鬼に成りゆく寒さかな


凍る湖戦車砲塔だけを出し