蛮族の生活

蛮族です、未来を喰らいつくします

詩:ハチの巣みたいな家で空気の標本を

f:id:vanzoku:20210522005808j:plain

ジメジメしたよのなかです。生ごみにコバエが沸き始めると夏の到来を知覚します。
ということで、季節感のある詩か戯曲のような散文を書きました。
写真を見ながら読むと、イメージがより広がるかもしれません。では、よい梅雨を。

 

「百万回目の梅雨」

何もかもが等間隔で並べられているように見えて、実際は少しずつずれているね。すべての部屋の空気。空気だけを集めた標本が、宇宙ではお土産の定番になっている。ちょうど、そうだね、ペナントみたいなものだろうか。

 

私は雨の日にはニューバランスを履くことにしていて、そのことを叱る人はもういない。彼はNBの文字を「ナイスボーイ」と呼んでいた、夏だった、プラネタリウムで中国人がとなりで泣いていた。
濡れている感覚が爪先にこびりついて、宇宙よりも水虫の方が気になりだした。古くから人間の体にはたくさんの幼虫が棲んでいて、誕生を待ち侘びて、手足をくねらせている。
翅を生やす細胞に、栄養を送る方法を知らないでいるまま腐る音は雨の音と似ている。

 

「帰ろうか、ハチの巣みたいな家に。たくさん空気を吸って。すう、はあ、すう、はあ。大丈夫、もう元には戻れない。君の眼球から蛹が見えて、オレンジ色の液体をたらたら流している。それは君が、もう幼虫ではなくて、もう幼虫にはなれないということ。
いくら新鮮な空気を吸ってもそれは変わらない。
ただ、君の蛹から黄金の熊が生まれることを僕は信じている。」

さっき宇宙で、火星人の魂が交信するのを見た。あの日からもう、百万回目の梅雨だ。