蛮族の生活

蛮族です、未来を喰らいつくします

産地直送短歌

 

夕凪が僕らを包む明後日になったら消える<夜に吐く息>

 

さみしくて肌に触れれば消えてゆく感情たちを恋と呼ぶのか

 

「ラッキーになりたいからさ」一箱のLuckystrikeを買っていく

 

冷え切っているスーパーで冷え切ったコーラを買って思うさよなら

 

間違えてほんとの名前で呼んでしまう。それはいけないことだったのに。

(2021/7/6 早川葵)

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貴方のための俳句

人死んで煤煙の街花だらけ

暗闇に明日を見つければ花火

止まらない震えや祭りの音がする

溢れゆく梅雨の匂いや犬が死ぬ

診察を待つワラビーよ夏の果て

短日の駅に獣の影映る

ひたひたと鬼に成りゆく寒さかな

北風や目をつむりつつピアノ焼く

歩くたび世界が揺れる冬至かな

悪霊や同じ台詞を繰り返し

休日のサラリーマンの手首かな

コカインの王国立ち上がる五月

黄昏の夢魔コカコーラ飲みほしぬ

〈山を焼く〉僕が傷つかないように

炭坑を吹っ飛ばしてる日のカンナ

悔恨が俺を追い抜いてゆく聖夜

狼に真昼の匂い雨激し

風花や犬を喰ふ犬見ておりぬ

迷宮の路地埋め尽くす鴉かな

虎の檻閉園のベル鳴り続け

手袋の中は暗黒犀通る

もののけの神社にうずくまる四月

旧寺院裸者の懺悔の音静か

蜻蛉の一斉に死ぬ神の杜

夕立去る大使館から血の気配

鱶の喰ふ肉赤々し夏の雨夜

風死して戦夢見る少年よ

ゆふなぎに永遠に祈る聖母像

林葬や葬列の背に浮かぶ汗

はつなつの銃の全き冷たさよ

花芒人美しく滅ぶベし

子守柿戦艦一日掛け沈む

凍る湖戦車砲塔だけを出し

生剝ぎの獣の蒼き瞳かな

走っても走っても街春終わる

八月のまどろむ街の雑役夫

十月や花売る少女に花溢れ

飢えている終点近きバスの中

夏の果て密入国の船行けり

ラグーンにペンギン眠る午前二時

日盛りに青年が買う月と銃

冬さうび抱かれて白き息となる

冬の雨遠くに紅き傘回る

春の雨しけた煙草に火をつける

朝の果て花びらひとつひとつうばふ

人待てば花降る街の花の午後

青年と鉄塊交差して夏だ

蝉時雨虚ろな約束だけ交わし

炎昼や街は間断もなく膨れ

百日紅青年雨にさらされて

少女みな金魚泳がせゆく祭り

一斉に少年兵は髪洗う

夏果てる路面電車に飛び乗って

白桃を眠らせておく夜だった

化け物と湖の花火を見ておりぬ

地下鉄に金木犀が満ちてゆく

風花や呼吸するよう煙草の火

沈黙と時々春の来る気配

古着屋に新品置いてある真夏

純血と混血歩く夏の果て

五百円ねだる褐色汗と雨

夕立かなマルボロの箱濡れていき

カフェオレの缶積み上げる梅雨の入り

炎昼や地下鉄に酒飲む男浮浪者や

歩き出せば四つ路の角に梅雨が来る

万緑の中狼の話など

少年の歩いて朝の冷凍都市

ふらついて帰る夜明けの救急車

サンタコスの女ふらつく聖夜かな

グッド・バイ ばかばかしい春だったな

「あいつもう死んじゃったのね」柿を剥く

雲の峰象死してなほ象遣ひ

 

2021 7/2 ことと

怠惰

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【生活】

湯船の中に夏野菜と親指が浮いている

汚い生き物を食べ続けてきたのか我々

誕生が爆破であるというなら飛散距離は割り出せない

シャーマンたちが作ったポトフの中に俺の霊魂が浸してあるかもしれぬ

疫病が蔓延していることでしか生まれない詩が残念ながらある

夜行列車には濃密な土の匂いが充満していて、ジャガイモの気持ちになれる

以上は、意味の連結を無視したただの言葉の羅列である。

ここに詩はあるか。

德丸 魁人(2021/06/24)

美しい呪い

「夏の空はピンク色をしていて好きなんです」この前の美容師の言葉が忘れられずに、夕焼けを見上げるようになった。

これから誰と肩を並べて歩いても、きっとどうしようもなく思い出す。いつも一番好きな映像・音声で再生されて、映画のフィルムのように焼き切れてしまうこともない。それは美しい呪いのように、僕を永遠に苦しめるだろう。

今日も空を見上げた。特別に綺麗な夕空だった。そして、光が街へ降りてきていた。ぴかぴかのビル、古びたラブホテル、知らない人の家、ダサいフォントの看板、まるで子供の描く夢の街のようにすべてがピンク色に塗り替えられ、別世界が広がっていた。僕は思わず立ち尽くし、その光景に見とれていた。だが、異様な現実が視界に入ってきた。

ピンク色の街の中を、黒い背広を着た人々が列をなし、骸のように歩いていく。ぼんやりと前を見つめて、あるいは握りしめたスマートフォンを見つめて。

 

空があんなにも綺麗なのに。まるで駅へ向かうことが宿命付けられているように、誰もが同じ方角へ歩いていく。

いったい、その先に何があるのだろうか。ただ、一切は過ぎていく。さらさらと落ちていく命、たくさんの呪いを振り返るばかりの生活、骨が少しずつ摩耗していく。カルシウムをとっても、幾万匹の牛を殺して美味しいところだけを焼いて食べても、俺は植物の死体を着ているよ。ぎゅるぎゅると脳みそが回転し、一番強い呪いを再生する。

 

「ぼくはいいものをつくらなければいきていてもしかたがない」

 

                           德丸 魁人(2021/6/23)f:id:vanzoku:20210624010655j:plain

書くということ

 

小説を書くようになってから、私の頭の中にいつでも小説の事が居座るようになっている。

 

寝ても覚めても談笑していても働いていても歩いていても静かに息を吐いても。生活の中で彼/彼女は私の中にいて私の書いている小説の登場人物たちは好き勝手に歩き回っている。

 

世の中に出してくれ、みんなに会わせてくれって彼らは私に文句を言ってくるけれども、私はそんな彼らに急かされたり缶コーヒーをおごらされたり一緒に帰ったりしながらなだめたりすかしたり時には励まされたりしながら少しづつ筆を進めている。

 

犀の角の様に私はただ一人歩む。

 

早く書き上げてしまいたいな、と思う。早く排泄してしまいたいな、と思うように。

 

そして書き上げたら貴方に見せたいな、と思う。

 

できればオーロラの下で

 

                       早川 葵(2021/6/21 星降る夜に)

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<a href="https://pixabay.com/ja/users/noel_bauza-2019050/?utm_source=link-attribution&utm_medium=referral&utm_campaign=image&utm_content=1197753">Noel Bauza</a>による<a href="https://pixabay.com/ja/?utm_source=link-attribution&utm_medium=referral&utm_campaign=image&utm_content=1197753">Pixabay</a>からの画像

 

 

 

 

宇宙ビッグデータ

降りしきる音と車輪の音、人間の話し声、僕の沈黙。あらゆるものが運動いて、それが永久機関のように感じるのが心地よい。地球が破裂した後でさえ、僕たちの残骸は漂うことで運動し続けていくだろう。

そこで、すべての曲が歌われなくなったとしても、発声も沈黙も存在するという点では同等だ。休符だけの永遠の楽譜が並べられているみたいに、無いことが存在し続ける。

そうして、頭は堕胎のことを考え始めて、水溜まりを踏み抜いた。

命が命になるのはどこからだろう。

聞いた話によると、僕たちは母親のお腹の中で人類の35億年の進化を繰り返すと言う。形が出来てくるとエラを持った魚の姿になり、両生類の姿になり、爬虫類になり、哺乳類、人間になっていく。

なんだか、どんないきものも命は平等なんですよーと母親に言われている気分になる。

美術館に足を運ぶと、油絵にならなかったスケッチ、建てられなかった建築の設計図、プロジェクトの企画書、たくさんのアーカイブを目にすることができる。人間の魂も、宇宙のどこかにアーカイブされているだろうか。